「AIで富は寡占される」vs「AIで仕事は増える」─ 矛盾する2本の記事から考えたこと
Noahpinion と a16z、ここ1ヶ月で読んだ対極的な記事を読み比べて考えたこと
AIによって未来はどうなるのか?Substackから矛盾する2本の記事が届いた
フラーを創業してもうすぐ15年、上場までようやく漕ぎ着けた今でも、僕は毎日のようにClaudeをはじめとするAIツールを触っている。資料の作成、ビジネスアイデアのブラッシュアップ、サービスのデザイン、アプリの開発 ─ これまでなら別々のメンバーに頼んでいた仕事を、今は一人で同時並行に進めている。これほどの数の作業を並列で動かす感覚は、15年起業家として生きてきて初めてのものだ。(そういえば、自分は高専でプログラミングを学んだエンジニアだったし、アプリ開発会社の創業者だったんだな、と最近改めて思い出してきた。笑)
それと同じ熱量で、僕はサンフランシスコ・ベイエリアから発信される最先端のAI情報を毎日ウォッチしている。Noahpinion、a16z ─ ベイエリアから時差を超えて届くSubstackのニュースレターを、故郷新潟の美味しい空気と共に毎朝取り入れる。こんな日課をかれこれもう数年続けている。実を言うと、最初は英語学習+最先端のスタートアップ情報のキャッチアップという意味合いが強かったのだが、途中から英文の理解をAIを活用して行うようになった結果、1日で読める英文量が爆発的に増えたのだ。そのおかげで最近では、「最先端AI情報の収集」という意味合いが最も強くなっている。
さて、本題に移ろう。
ここ1ヶ月ほどで読んだAI関連の記事の中で、とりわけ気になった2本があった。しかも、主張がほぼ正反対のものだ。
ひとつは Noah Smith の Noahpinion から、「もし数社のAI企業がすべての富と権力を持つことになったら?」。
もうひとつは a16z の David George から、「AI職業破滅論は完全な幻想だ」。
片や「AIは寡占され、極端な格差を生む」と警鐘を鳴らし、片や「AIで仕事はむしろ増える」と楽観を示す。この2つの記事をほぼ同時期に読んで、僕はしばらく考えていた。
いったい、どちらが正しいのだろう?
1. Noah Smithの警鐘 ─ AIマネーは数社に流れ込む
Noahの主張はこうだ。
エージェント型コーディングがAIの「キラーアプリ」になり、業界は急速に収益化している。企業向け販売に集中していたAnthropicが、消費者向けに注力したOpenAIを売上で追い抜きつつあり、計算コストも安いため黒字化も先行する。一方で他社は脱落しつつあり、業界は2強体制に向かっている。
そして、これからAIの未来を占う新たな鍵となるのがサイバーセキュリティだという。AIがハッキングに使えるレベルに到達した以上、防御側はそれ以上のAIを使わざるを得ない。攻防が成立する以上、企業はAIに大金を払い続ける。同じ構造はクオンツ取引や訴訟、不正検知にも広がる ── つまりAI業界は寡占的に儲かり続け、ごく少数の企業に世界の富が流れ込みかねない、と。
これは僕にとってもリアルな話だ。自分自身もすでにあらゆる作業をする上で、AIインフラの恩恵を毎日のように受けている。同時に、毎月のAI利用料と足りなくなって課金するトークン使用料を見ながら「ああ、自分も資本の上流に貢いでいるんだな」と感じることが少なからずある。
IT分野の起業家として、かれこれ15年ほど米国テック企業が築き上げたインフラの上で仕事をしている。iPhoneアプリを開発するためにMacとiPhoneの最新バージョンを購入し、SaaSを運営するためにクラウドサービスに課金をし、サービスや会社を認知してもらうためにSNSを毎日利用する。
そしてほぼ確定してしまった未来が、「AI利用料を払い続ける」ということだ。
AI利用料を支払うことによって、生産性を向上し、人間の仕事をどんどん代替していかなくてはならない。そうしなければ、時代の変化に取り残されてしまう。
最近では、米国テック企業はAIに仕事をさせることによって、大量に従業員をレイオフ(解雇)して利益率を上げているというニュースが目立つ。コンピュータ・サイエンス学科を卒業しても就職難になっているという話も聞いた。日本にいるとまだ実感がそこまでわかないかもしれないが、世界最先端の地では急激に社会が変化していっている。
AIが人々から仕事を奪い、一部の企業が富を独占する。
そんな未来になるのだろうか?
2. a16zの反論 ─ AIで仕事はむしろ増える
ところが、もう1本、a16z の記事は真逆だった。
著者の David George はこう主張する。「AIが仕事を奪う」という言説は、経済学でいう「労働塊の誤謬(lump-of-labor fallacy)」に過ぎないと。仕事の量が固定だと仮定するから、AIがやれば人間の仕事が減るように見えるだけであって、実際にはそうならない。経済学者のケインズは100年前に「自動化で週15時間労働になる」と予言したが、それは見事に外れた。人間は仕事が減れば新しい仕事を作る生き物だからだ。
歴史を見ても同じパターンの繰り返しだ。農業の機械化で米国の就業者は30%から2%に減ったが、彼らは工場や店舗、オフィス、病院、そしてソフトウェア産業に吸収された。工場の電化は生産性を倍増させ、製造・販売・金融でかえって雇用を増やした。表計算ソフトのExcel(の前身であるVisiCalc)は簿記係を約100万人減らした一方で、財務アナリストという新しい職を約150万人も生み出している。いずれも、短期的には既存の職を奪いながら、それ以上に新しい職を生んできたのだ。
直近の様々な研究(NBER、アトランタ連銀、Yale Budget Lab)も、口を揃えて「AI導入による雇用への統計的に有意な影響は確認できない」と結論している。むしろ「AIで拡張される職種(Augmentation)」では給料が上がっており、ソフトウェアエンジニアの求人は2025年初頭から増加トレンドにある。
結論:AIは仕事を奪う側(taker)というより、作る側(maker)だ。
この記事単体で読むと、様々なファクトを元に論じており、かつテクノロジーによって社会がどう変化したのかを歴史を元に説明しているので、とても説得力を感じた。
確かに、テクノロジーはいつの時代も新しい仕事とチャンスを生み出してきた。科学と技術の進歩によって、人類は繁栄してきた。
漫画「Dr.STONE」が大好きな自分としては、科学は常にワクワクするものだし、人々を豊かにし続けると信じている派だ。動力が生まれたことによって人々はキツい肉体労働から解放されたし、メガネが生まれたことによって視力が悪いことは病気ではなくなった。
高専出身でテクノロジーが大好きな起業家としては、当然のようにAIによる時代の変化に、日々ワクワクしている。人生で今が一番エキサイティングだと言っても過言ではないタイミングだ。
一方で、前述のNoahのSubstackも読んでいたので、この楽観的な未来にどうしてもまだひっかかっている自分も存在していた。
そのモヤモヤが何かということに、先日やっと気づいた。
それは、自分自身がここ5年ほど、故郷の新潟を拠点にして「地方創生」「起業家育成」といった、地域や次世代への還元をライフワークにしてきたからだ。
おそらくこの観点がなく、単に「IT起業家」という立場しかない自分だったら、このような思考にはならなかったのだと思う。
僕がどのようなバックグランドで現在に至ったのか、気になった方はこちらの記事もぜひ読んでみてもらえると嬉しいです。よろしければ購読も是非。
3. モヤモヤの正体 ─ 2つの記事にない視点
地方創生・起業家育成という観点から2本の記事を読み返してみて、僕はあることに気づいた。
そもそも、NoahとDavidは、まったく違うレイヤーの話をしているのだ。
Noahが論じているのは「カネ」── 資本がどこに流れるか、という話。
Davidが論じているのは「シゴト」── 労働市場がどう変わるか、という話。
そして、よくよく考えてみると、この2つは矛盾しない。AIインフラを握る数社に巨額の富が集中する一方で、AIを使う側の経済では仕事が再配置され、トータルでは雇用が増える ── これは同時に成り立ちうる。Noahの「寡占」も、Davidの「雇用はむしろ増える」も、どちらも正しいのだと思う。
でも、僕のひっかかりは、それでも晴れなかった。
なぜなら、2人とも「米国経済全体」や「グローバルな労働市場」というマクロの話をしているからだ。マクロで「富は一部に集中するが、仕事の総量は減らない」が正しいとして ── では、その富と仕事は、いったい「どこ」の「誰」のところへ行くのだろうか?
地方は、次世代は、この変化のどちら側に立つことになるのか。
マクロの議論は、その問いには答えてくれない。これこそが、地方創生と人材育成をライフワークにしてきた自分が、どうしても引っかかってしまう問いだったのだ。
4. しかし、地方にこそ最大のチャンスがある
ここからは、僕の中の楽観的な側面の話をさせてほしい。
地方創生を5年やってきて、最近はっきりと確信していることがある。それは ──
個人のレバレッジが、歴史上類を見ないレベルで上がっている、ということだ。
冒頭に書いた通り、僕は今、10年前なら数人・数十人のチームでしか回せなかった量の仕事を、AIを使って一人でこなしている。そしてこれは、新潟にいても、東京にいても、シリコンバレーにいても変わらない。
新潟で若い起業家たちと話していると、東京の同世代と比べて遜色ない、いやむしろ面白い事業をしている人に出逢う。理由は単純で、地理的なハンディキャップがテクノロジーによって急速に消えているからだ。
「起業は東京でなければ無理」と言われていた時代から、「むしろ地方にこそ課題とチャンスが眠っている」と考える人も増えてきたのだ。
「富の寡占」は、たしかにAIインフラの最上流では起きるのだろう。でも、その下流 ─「AIを使って何を生み出すか」という領域では、むしろ参加のハードルが劇的に下がっている。地方の若者にも、高専生にも、誰の手にも、世界レベルの「武器」が握れる時代になったのだ。
これは、地方創生をやってきた自分にとって、とても勇気づけられる観点だった。
5. 地方創生をライフワークにする起業家として
ただ、勇気づけられると同時に、ひとつの懸念も拭えずにいる。
それは、地方には、AIのような新しいテクノロジーへの感度が高い人が、相対的にまだ少ないということだ。最先端の情報はその多くが英語で、しかも海の向こうのベイエリアから発信される。その距離が感度の差をじわじわと広げ、気づかないうちに「時代に取り残される人」を増やしてしまうのではないか ── 地元の人々と接する日々の中で、僕はそれを一番恐れている。
世界レベルの「武器」が誰の手にも届く時代になったとはいえ、その武器の存在に気づき、使いこなす人と、そうでない人の差は、これまで以上に開いてしまうかもしれない。マクロでは「雇用は減っていない」と言われても、現場では確実に取り残される人が出てくるのではないだろうか。
でも、裏を返せば ── これは地方で闘う起業家にとって、とてつもないチャンスでもある。
周りの感度がまだ高くないからこそ、いち早く最先端に触れ、英語で情報をキャッチアップする人には、大きなアドバンテージがある。地理的なハンデがAIで消えていく今、本当に必要なのは「どこに住むか」ではなく「情報にどれだけ敏感か」なのだと思う。
僕は今、毎日のように新潟からベイエリアの最先端情報を追いかけ、AIツールを使い倒しながら、数社のAIプロバイダにAI利用料を払っている。寡占の上流に貢いでいる側でもあるし、同時にAIにレバレッジされて生産性を何倍にもしている個人でもある。その両方の側面を、同時に生きている。
そして、地方創生と次世代育成をライフワークにする者として、僕にはひとつの役割があると思っている。それは、この「武器」と、それを使いこなすための「感度」を、新潟の、地方の、次世代に届けることだ。
15年起業家をやってきて、僕は一つ学んだことがある。
常に最先端の情報に触れる努力を怠らなければ、必ずチャンスは訪れる。
本当に問うべきこと
Noahのように寡占を心配する立場も、Davidのように労働市場を楽観する立場も、きっとそれぞれ正しい。そして、その予測はどちらも当たるかもしれないし、どちらも当たらないかもしれない。
どれだけ最先端の情報を浴びても、どれだけ深く未来について考えても、結局のところ未来を完璧に予測することは、誰にもできない。
そこで思い出すのが、パーソナルコンピュータの父と呼ばれるアラン・ケイの有名な言葉だ。
The best way to predict the future is to invent it. (未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ)
この言葉が、AIの議論を読めば読むほど、僕の中で重みを増していく。
考えてみれば当たり前のことだが、アラン・ケイたちがパーソナルコンピュータを発明していなければ、今日のAIはそもそも存在していない。彼らは未来を予測したのではない。未来を発明することで、未来を決めたのだ。
だから、僕らが本当に問うべきは、これなのだと思う。
「この時代に、何をして生きるか?」
この先の時代がどうなるかはもちろん大事だが、最も大事なことは、
「それぞれの個人が何を考えて、どのように生きるか。」ではないだろうか。
僕自身も、ずっと考えて生きていきたという自負はあるが、今まで以上に考えて行動することの重要性が高まっているのを日々感じている。
あなたは、このAI時代を、何をして生きますか?
おわりに ─ 改めてShibuyanalysisについて
最後に、少しだけこのSubstackの話をさせてほしい。
このShibuyanalysisはまさに、さっき書いた「感度」を一人でも多くの人に届けるためのものだ。
僕が毎日取り入れている最先端のAI・テクノロジー情報を、自分なりに噛み砕いて、ここで届けていく。例え地方にいても、世界の最前線で何が起きているのかを、できる限り早く知ってもらいたいと思っている。
「英語は苦手で…」という人も、心配いらない。今はAIが、いくらでも翻訳と理解を助けてくれる。実際、僕自身がAIのおかげで1日に読める英文量が爆発的に増えた一人だ。大切なのは、英語力よりも、最先端への好奇心なのだと思う。
最先端のテクノロジーに少しでも興味があるなら、そして「この時代に、何をして生きるか」を一緒に考えていきたいなら ── このSubstackをぜひ購読してもらえたら嬉しい。
ちなみに、最近出して好評なのはこちらの記事です。Substackの活用法や伸ばし方についても英語で情報収集しているので、定期的に発信したいと思います。
新潟から、世界の最前線の話を。
これからもShibuyanalysisをよろしくお願いします。









「カネ」と「シゴト」は同じ話に見えて、実は別のレイヤーだという整理が印象に残りました。
AIによって富は集中する。けれど、AIを使う側の仕事や機会は増える。この両方が同時に起きる、という見方はとても実感があります。
特に地方の話になると、急に議論が身体を持ちますね。
場所のハンデが小さくなる一方で、情報感度の差はむしろ大きくなる。
「どこにいるか」より「何に触れているか」。
この時代の残酷さと希望が、同じ机の上に置かれている感じがしました。